Friday, September 14, 2007

井上ひさし、日本語文法

なんでも読書   ◆◇◆◆
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2007.09.14
Vol.2361                


『私家版 日本語文法』







井上 ひさし(いのうえ ひさし)
出版:新潮文庫 1984年
定価:460円(税込)
ISBN4-10-116814-8


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これは今さら取り上げるのもどうかと思うくらいの名
著でありまして、このたび思い出したように読んだ私
も、三度目か四度目。久しぶりに読んでもまだ再発見
があるというところが、名著のゆえん。日本語に真正
面から取り組んで、著者の持つ知識の広さと発想のユ
ニークさが現代日本語の抱える問題をじつにわかりや
すく述べているのです。

学校で習う「文法」というのが、ほんとにつまらない
もので、あれくらい眠気を誘う授業と言うのも他にな
い。やはりそれは、日本語を西洋の文法に無理やり当
てはめたところから来ているのでは、と思いますし、
活用がどうのこうのと丸暗記させられても、面白いは
ずがない。

ところが、ここでは例文として週刊誌や新聞広告、マ
ンガ、と思ったら農業白書に夏目漱石、宮沢賢治など
の文芸もある。特に詩文の扱い方はまさに驚くばかり
で、俳句や短歌、万葉集まで言及する。それはつまり
みんな「日本語」なのですね。堅い日本語研究書では
当然マンガや週刊誌などを扱うはずもありません。

「南奥方言とほとんど同じ言葉に関する文法が英文法
よりもはるかに難しいことに気づいて、自分はほんと
うに日本人なのかと不安になった」

「たとえば三島由紀夫は親の仇にでも出逢ったように
擬声語を叩く」

「ではわたしたちはなぜ、自分に属するものを過小に
いう癖を持っているのだろうか」

「もっといえば、正しい、美しい、理想の日本語など
というものはない」

実朝の和歌を音韻で分解してみせたり、宮沢賢治の詩
に使われる通鼻音の数を数えてみたり、はては三遊亭
円生の落語を文章化して、どんなに変化があるのか、
まさに目に見えるように解読する。全部で三十四章に
分かれた短文ながら、どれ一つとっても読者の驚きを
誘います。

今回私がう~んとうなったのは、「です」の発音に関
する箇所。「素人の 古典まなびの 七五調」の章。
現代日本人は「です」を「desu」と発音せずに、
「des」と発音すると言う。「トマト」も「t’m
at」、「時計」は「tke:」。自分で発音してみ
て、たしかにそうだと思ったもの。

それにうちの八十六歳の母親なんて「ディズニーラン
ド」は言えません。「デズニーランド」ですものね。
このようについ最近、日本語に外国語の音が入り込ん
でいるのです。しかも大部分がそのことに気づいてい
ない。常々言っていることながら、日本語の文章とい
うものの歴史は、たかだか百年。現代日本語は乱れて
いるなんて言い草は、事実を知らないとしか言えませ
ん。もともと日本語は乱れているのです。

などという感想を、文法に無知な私でもついつい持っ
てしまうのが、本書の特徴。全然堅苦しくない、面白
い「文法書」。

2時間30分     



評価  ★★★★★




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評価について

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★★★★★・・・・・めったに読めない逸品       
★★★★・・・・・・なん読お薦め本      
★★★・・・・・・・好み次第だけど、平均点以上     
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