Wednesday, May 7, 2008

短編ウイリアム・トレバー

なんでも読書   ◆◇◆◆
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2008.05.07
Vol.2589                


『密会』

A BIT ON THE SIDE 





ウィリアム・トレヴァー William Trevor
中野恵津子 訳
出版:新潮社 2008年
定価:1995円(税込)
ISBN978-4-10-590065-6


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新潮社のクレスト・ブックでは現代英米文学の質の高
さを教えてもらいますが、この著者ウィリアム・トレ
ヴァーは英文学の短篇の名手として紹介されています。
全十二篇。短篇の上手い人ってのは、人生の切り口を
見せるという方法を取るものですが、この作家の方法
論は少し異なっている。大胆に時間を使いこなす。

夫の死んだ日に、ゲラティー姉妹がやって来た。もち
ろん彼の死んだことを知らないで。姉妹は中年で独身
だった。エミリーもよく知らないし、会ったこともな
かった・・・・・

「死者とともに」

劇場のバーで待ち合わせをした。イーヴリンは小さい
頃から、約束の時間に遅れないというのが強迫観念に
なっていた。やがて男がやって来た。こうして会って
みると、あまり意外な感じはしなかった・・・・・

「夜の外出」

ローズの家で家庭教師のブーヴェリー先生をディナー
に呼んだ。先生にとってローズは最後の生徒だった。
ブーヴェリー先生の家には、若い男が出入りしていた。
先生は何も知らない・・・・・

「ローズは泣いた」

いったい何が特徴的なのだろうか。しばらく考えてや
っとわかりました。ここには作家自身が姿をまったく
見せていない。小説というものは、どこかに作家の影
が現れるものですが、ここにはそれを極力排した痕が
見られます。登場人物たちの思いや感情は表されてい
ても、それを描いている作家は徹底して奥に隠れてい
る。

これは簡単なことではない。よほどの手練手管に長け
た作家にしかできません。また、ストーリーを通して、
何かを主張するというあざとさをも極力避けている。
ほんの二十ページの中に、登場人物の全人生が読者に
はわかる。いや、わかると錯覚してしまう。その意味
で読者をいい気持にしてしまうのですね。

「あの人たちは善意で来てくれたのだ、とエミリーは
もう一度自分に言い聞かせた」

「正直な話、道理も何もまったく理解できない娘なの
だ」

「これで終わりにしよう。もちろん、失望はするだろ
うが、ほっとするかもしれない」

「私はとうとう、自分には、語りたいことを語るとい
う救いが与えられないのだとあきらめた」

「普通」というのがいったい何を指すのか。一見普通
に見える人々が、どんなに奇妙なのか。まったく見知
らぬ同士が知り合う物語「夜の外出」などは、男の卑
しさに比べ、女性の神々しさが心を打ちます。「聖像」
に出てくる妻の何気なさにも惚れ惚れします。

十二篇どれも好きですが、もっとも気に入ったのが、
「ダンス教師の音楽」。たった一度聞いただけの音楽
を一生心に刻み付けた女性ブリジッド。本書を読んだ
人は、それぞれお気に入りの物語をきっと見つけるで
しょう。決して波乱万丈の物語はそこにはないのに、
ずっと心に残ることは間違いありません。

2時間30分


なぜなんだ妻と猫とに弱い犬


評価  ★★★★★

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